『ケイク・オ・フリュイ』とは、ドライフルーツの入ったパウンドケーキのことを言います。「cake」はフランス語でケイクと発音し、パウンドケーキのことを言います。「fruits」はフランス語でフリュイと発音し、フルーツのことを言います。

『ケイク・オ・フリュイ』は、多くのパティスリー（ケーキ屋さん）で売られています。以前、私が勤めていた都内のパティスリーでも作っていました。基本の素材は、バター、砂糖、卵、小麦粉で生地を作り、その中に洋酒やスパイスにつけた、ドライフルーツ、ナッツをいれて焼き上げます。そして、焼き上げた後に洋酒のシロップをたっぷりとかけて完成です。

私は、『ケイク・オ・フリュイ』をはじめは作りませんでした。個人的に、何か月も洋酒に漬けこんだドライフルーツやスパイスが苦手で、美味しいと感じなかったからです。千葉に帰り、洋菓子を作り、５年が過ぎると、美味しいパウンドケーキを作りたいという気持ちが日に日に強くなりました。私の中で、美味しいパウンドケーキをつくることは、とてもハードルが高いものでした。都内で働いていたとき、休みの日を利用しては東京、神奈川、埼玉、時間があるときは、関西、九州などのお菓子屋巡りをしましたが、美味しいパウンドケーキに出会えることは、ほんの数店でした。もちろん、好みの問題ですが、少しパサついたパウンドケーキは飲み込むのも一苦労。逆に、シロップで浸されたものは、飲み込みやすいですが、びちゃっとしています。また、洋酒やスパイスの風味が強すぎて、フルーツの美味しさが生かされていないものもありました。

私が目指す『ケイク・オ・フリュイ』は、しっとりして口どけがよく、洋酒が主張しすぎずフルーツの美味しさを味わえるもの。何十回と試作の末、１年が過ぎ完成しました。

①生地をしっとりさせるため、空気をあまり入れません。そして、粉末のアーモンドを粉と同　　じくらい入れます。そうすることで、生地がとてもしっとりします。

②フルーツは、レーズン、イチジク、洋ナシの3種類のみ。ドライフルーツがたくさん入れすぎるとお互いが喧嘩して味がまとまらないので、３種類に限定しました。そして、ポイントとして、レーズンはキルッシュワッサー（サクランボの洋酒）とシロップで熟成、イチジクはシロップで熟成、洋ナシはシロップで熟成と、３つのフルーツを別々に熟成させ、生地を作るときにはじめて一緒にします。そうすることで、それぞれのフルーツが美味しさを主張してくれます。

③焼きあがったら、すぐに全体にサランラップをして密閉します。そうすることで、水分が蒸発せずに、生地内にとどまり、しっとり水分が保たれます。

④最後に、生地の全体にグラスアロー（粉糖に水分をいれて結晶化させたもの）をかけ、オーブンにいれます。生地を作る際、しっとりさせるために、たくさんの粉末アーモンドをいれるので、味が少しぼやけてしまいます。周りにグラスアローをかけ甘さを補強することで、全体のバランスをとり、美味しさを引き立ててくれます。

自分がこれだと思う「ケイク・オ・フリュイ」をつくる気持ちで、試作をし続けました。店頭に出しては、「これは違う、ここは直そう」、有名な「ケイク・オ・フリュイ」をとりよせて何度も食べて参考にしてきました。

知り合いやお客様にどのお菓子好きですかと聞かれます。その時は、「全部好きです」といってしまいます。理由は、どれも自分で考えて悩みながら、生み出したかわいいお菓子たちですから、優劣はつけられないというのが本音です。どれもが「かわいい子供達」と思っています。